「拉致は戦争だ」ー「テロ」の意味 長瀬たけし氏著

「拉致はテロだ」という主張は、
9.17以降「経済制裁」を求める運動の枕詞となり、
私たちは疑うことなく、
そう染められたのぼり旗を掲げて、街頭に立ちました。
しかし、本当にそれで良かったのでしょうか。

まず、このたび批准に至った「強制失踪条約」の中身を見てみましょう。
この条約は、2006年12月20日の第61回国連総会で採択された条約です。
正式名称は「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約」と言います。
この2年前には、
蘇我ひとみさんがお嬢さんとの再会を果たしており、
国際的な関心が拉致問題に注がれていました。
この条約は、明らかに北朝鮮を主たる対象にしています。

条約の概要は、次のように翻訳されています。
「国家機関や国の許可を得た個人又は集団が逮捕・拘禁・拉致などで個人の自由をはく奪する行為を強制失踪として禁止し、組織的で広範な強制的失踪は、人道に対する罪に相当すると規定する禁止条約。」

ここで注目するべきは、
下線部「人道に対する罪に相当すると規定する」という部分です。
第5条には、次の様に明確な定義がなされています。
「強制失踪の広範又は組織的な実行は、適用可能な国際法に定める人道に対する犯罪を構成し、及び当該適用可能な国際法の定めるところにより結果を得る。」

それでは、「当該適用可能な国際法の定めるところにより結果を得る。」とは、どういうことを指すのでしょうか。
思いあたるのは、オランダ・ハーグに設置された国際刑事裁判所です。
ここでは現在、コソボ紛争で発生した、虐殺についての審理が進められています。

同紛争の一方当事者であるセルビアに対し、
国連安保理による非難を根拠としてNATOが軍事介入、
大規模な空爆が実施されたのは、皆さんのご記憶にも新しいことと思います。

即ち「当該適用可能な国際法の定めるところにより結果を得る。」とは、
軍事的制裁を含む処置を排除しないということであり、
我が国と北朝鮮との関係に置き換えれば、拉致という強制失踪に対して、軍事行動もあり得るということなのです。
翻って過去の私たちの主張で叫ばれた「テロ」とは一体何を意味していたのでしょうか。

難しい戦争の定義は専門家におまかせすることとして、一般にテロと称されるものの内、

国際的な拡がりをもつものに対しては、「戦争」に含まれるというのが一般的となりつつあります。
その典型が9.11テロとアフガニスタン攻撃です。

しかし、
私たちが訴えていた「テロ」という言葉には、
「戦争」という意味は薄く、むしろそのことを曖昧にして、国民世論の拒否反応から忌避しようとしていたのではないでしょうか。
そして、
米国の「テロ支援国指定」や「北朝鮮人権法制定」を受けて、
米国を中心とする西側諸国による国際的圧力により、展開を打開しようと企図していたはずです。
安倍政権発足当時、私はそのように信じておりました。
今思えば、誠に愚かしいことであり、誤った世論誘導に与した責任の一端は私にもあると猛省しております。
私たちは、何者にも臆することなく「拉致は戦争だ」と訴えるべきだったのです。

私たちが、禅問答がごとき意味不明な言葉遣いをしているうちに、あっさりと批准された「強制失踪条約」は、
このように大変重い意味をもっているということがお分かり頂けたでしょうか。
故に、筆を取らせて頂いた次第です。